隠れ里と幽霊温泉の話

第百九十六訓~第二百一訓、全六回にも及んだスタンド温泉編より。

最終話は体調不良で少々ざっくりした感想になってしまいましたけども、このシリーズ楽しかったです。故人は生き残る者の心(魂)の中に居続ける、というメッセージは作中で繰り返し伝えられていますが、空知先生の持つ死生観のまた新しい部分が少し見えたかなと思います。


◆霊場・仙望郷
女将・お岩の営む「仙望郷」は、盆から零れた霊たちがその身を癒しに集まる、地元民ですら足を運ぶ事のない陸の孤島の温泉宿という一種の隠れ里的な舞台でした。パロディ元の『千と千尋の神隠し』が隠れ里が舞台なので必然的にそうなったのでしょうけど、空知先生にもその概念はあったのかな?「隠れ里」については第二百訓「二百回とか気にしないでいこうか」感想やウィキでも見て頂きまして。⇒ウィキペディア【隠れ里】

お岩がなぜ不便な山奥に宿を構えたかと言うと、まぁそこに温泉が湧いていたからでしょうが、一番の理由は霊は山に集まるものだからでしょうか。日本では昔から「人は死んだらその魂は山に還る」と言われてますし、霊が集まる「霊場」というものは大抵が山です。(代表的なのは恐山。)


◆スタンド使い
幽霊が人に協力する事ってあるんだろうか。…あるらしいですね、イロイロと。「飴屋の幽霊」とかそうじゃないかなぁ。《ある飴屋にいつも怪しい女が飴を買いに来るので、主人が怪しんで後をつけると、女が墓場で赤子に飴を与えている。女は死んでから子供を産んで、墓場で育てていた。主人が可哀想に思って赤子を拾って育て始めると、女の幽霊は何かと主人の手助けをしたそうである》…という話。(ピンと来た方もいらっしゃるでしょうが、鬼太郎の誕生はこの話を元にしているそうです。)

私は「幽霊」というとやれ『リング』だ『呪怨』だみたいな怨霊のイメージが植え付けられているので幽霊とお近付きにはなれそうにないです。怖い。


◆幽霊と温泉
昔話などに仙望郷と似た話は無いかと本棚を漁っていたら、『明治妖怪新聞』の「化物屋敷」の章にて「化物温泉大繁盛」なる気になる見出しを見付けました。この本は明治時代の怪事件を報じる新聞記事を集めた本です。明治といったらすぐ前は江戸、江戸期は妖怪も幽霊も「化物」と呼んでいたそうですから、これはもしや類話かもしれない。「東京日日新聞」、明治十八年十二月一日午後版の伝える内容は要約すると以下の様なもの。

●ある温泉宿があった。近所の者が入浴に来て一人湯に浸かっていると、後ろから「旦那お背中を流しましょう」という声がした。誰かと振り返ったが誰もいない。間違いかと思ってそのまま浸かっていると、またしても後ろから「旦那お背中を流しましょう」と聞こえる。そういうお前は何者だと言って振り返るが、やはり誰もいない。さては化物の仕業かと思うとにわかに冷や水を浴びせられた様な心地がして、風呂から飛び出し慌てふためいて家に帰り、家内や近隣の人々に次第を話した。“化物温泉”の噂はたちまち広がり、温泉宿はすっかり客足が途絶えてしまった。
これは大事と温泉宿の主人、ひと工夫を考え、「化け物を見て番台へ知らせた方へは御礼として反物を進呈します」と打った。これを聞いた血気盛んな若者などは面白がり、我先にと温泉へ来て、温泉は大入りとなった。
これはいけると踏んだ主人は、さらに「ここ最近の評判についてはお聞きの通りですので、景物として入湯した大人には物品、お子様にはお菓子を差し上げます」と広告した。そうならその景物も貰おうと、老若男女問わず客が来て、“化物温泉”は引きも切らずの大繁盛となったそうである。…


この「化物」の正体って、銀さんの背中を流してやりたいと思い続けて背中流しの能力に特化した幽霊と化したレイちゃんなんじゃね?(違うと思う。)ちなみに記事の末尾には「天晴れ温泉主人の機転かな」という記者の賛辞付きでした。


◆霊場と温泉
かの有名な恐山に「恐山温泉」なる温泉があるらしい。・・・そういえば観光ガイドとかあまり読まないし考えた事も無かったけど、恐山って火山ですもんね。温泉くらい普通にありますよね。しかしこれは凄いですよ。日本三大霊場のひとつ恐山の温泉とあれば、きっと幽霊さん達も・・・いや、祖霊に向かって「幽霊さん」などとは失礼ですね、「ご先祖様方」も大勢お越しになっている事でしょう。恐山温泉でなら極楽のお湯でご先祖様とマッタリ、という夢のようなひと時を現実にできるかも?

※日本三大霊場…比叡山、高野山、恐山の三箇所。高野山や比叡山にも温泉があるそうですが、それっぽい雰囲気を味わいたいなら断然恐山の方が向いている?でも有力な霊場にこれだけ温泉があるって面白い符合だなぁ。温泉(火山)と霊場って関係あるんだろうか。熱湯の吹き出し口や硫黄の臭いが地獄を連想させるから?

〈参考〉
恐山温泉 (関東周辺 立ち寄り温泉みしゅらん より)
ウィキペディア【恐山】

『水木しげるの妖怪事典』/水木しげる
『明治妖怪新聞』/湯本豪一
※二冊とも水木家の本棚に簡単な書評付きで置いてあります。
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by shougetu16 | 2008-03-02 20:02 | 幻妖趣味(~怪~)

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